会社でAIを使うときの
情報の線引き
会社の仕事でAIを使うとき、一番迷うのは「何を入れていいか」です。便利なのは分かっている。でも、顧客の名前を入れた瞬間に、それは情報漏えいかもしれない。
私は非エンジニアの会社員で、AIを議事録やメール、資料の下書きに使っています。使い始めたころは、入れるたびに「これは大丈夫か」と手が止まり、結局使わないことが多くありました。
いまは、自分の線引きを1枚の表にしています。この記事はその表と、迷ったときの考え方です。先に一番大事なことを書きます。会社のルールが、この記事より優先です。会社がAI利用を禁止しているなら、この記事の内容は使えません。認めている場合も、会社が決めた線がある場合はそちらに従ってください。この記事は「会社のルールの中で、自分がさらにどこに線を引くか」の話です。
最初に確認する3つ【会社のルール】
自分の線引きの前に、会社の線を確認します。見るのは3つです。
- 業務でのAI利用が認められているか——就業規則、情報セキュリティのルール、社内の通達。「書いていない=いい」ではありません。書いていないなら、上司か情報管理の担当に聞きます
- 使っていい道具が指定されているか——会社が契約したAIだけ、と決まっていることがあります。その場合、個人のアカウントは使いません
- 入れてはいけない情報が定義されているか——「機密情報」「個人情報」が社内でどう定義されているか。この定義が、線引きの土台になります
私は、副業を始めるときに就業規則を読んだのと同じ流れで、AIの項目も確認しました。就業規則の読み方は副業禁止の会社員はブログをやれる?就業規則の確認手順【2026年】に書きましたが、AIの利用も「まず規則、次に自分の判断」の順は同じです。
線引きの表【入れていいもの・ダメなもの】
会社のルールの中で、私が自分に課している線です。
| 種類 | 入れていい | 入れない |
|---|---|---|
| 人 | 役割(担当者・上司・取引先の担当者) | 氏名・部署名・連絡先・顔写真 |
| 会社・取引先 | 業種・規模の程度 | 社名・取引先名・案件名 |
| お金 | 「金額」「単価」という項目名 | 実際の金額・売上・原価・見積もり |
| 文書 | 自分の言葉で書き直した要点 | 社内資料・契約書・相手からのメール原文 |
| 仕組み | 「受注システム」のような一般名 | システム名・URL・ID・パスワード |
| 計画 | 公開済みの情報 | 未公開の計画・人事・新製品 |
| 画像 | (原則なし) | 画面のスクリーンショット・書類の写真 |
右の列を見ると分かりますが、入れないものは「それだけで誰か・どこかが特定できるもの」と「まだ外に出ていないもの」です。この2つで、ほぼ全部の判断がつきます。
なぜダメか【AIの向こう側を考える】
「AIに入れる」は、自分のパソコンの中で完結しません。入力した文章は、AIを提供している会社のサーバーに送られます。そこで何が起きるかは、道具と契約によって違います。
- 学習に使われるかどうか——個人向けの無料プランでは、入力が将来のAIの学習に使われる設定になっていることがあります。会社契約のものは、使われない契約になっていることが多いです。どちらかは、自分の使っている道具の設定と規約で確認するしかありません
- 保存されるかどうか——会話の履歴が残ります。自分のアカウントが乗っ取られたら、履歴ごと見られます
- 誰が見られるか——会社契約なら、管理者が履歴を見られる設定になっていることもあります
非エンジニアの私には、この中身を正確に判断できません。だから、「向こう側で何が起きても困らないものだけ入れる」と決めました。困るかどうかは、上の表の右の列で判断できます。
「置き換え」で大半は解決する
「入れない」と決めると、何もできない気がします。でも実際は、AIに頼む作業の大半は「型」や「整理」で、本当の名前や数字は要りません。
| やりたいこと | 置き換えて渡すもの | 返ってきたあとに自分で |
|---|---|---|
| 会議のアジェンダ | 目的・役割・議題の種類 | 名前と案件名を入れる |
| 議事録の整理 | 置き換えた発言メモ | 誰の発言かを戻す |
| お詫びメール | 「取引先A」「案件B」で書いた中身 | 本当の名前に戻す |
| 手順書 | 「受注システム」「担当者」で書いた手順 | 社内の名前に戻す |
| Excelの関数 | 架空の3行の表 | 本物の表に式を入れる |
置き換えのコツは、渡す前に「これが社外に出ても困らないか」を1回だけ考えることです。困るなら、まだ置き換えが足りません。困らないなら、渡していい。この1回の確認が、線引きの実体です。
置き換えた語は、返ってきたあとに戻します。戻し忘れると「取引先A」のまま送ることになるので、置き換えた語で検索してから使います。
迷うもの【グレーのときの判断】
表で判断できないものもあります。私の判断の順番です。
- ①迷ったら入れない——「たぶん大丈夫」は大丈夫ではありません。入れなくても仕事は進みます
- ②置き換えられないか考える——入れたい情報は、本当にそのままである必要があるか
- ③それでも必要なら、上司か情報管理の担当に聞く——自分で決めない。聞いた記録を残す
私が実際に迷ったのは「社内の一般的な業務フロー」でした。機密ではないが、社外には出していない。結局、置き換えて一般化すれば、どの会社にもある流れになったので、それを渡しました。置き換えられないなら、入れなかったと思います。
道具の側で見ておくこと
線引きは自分の側の話ですが、道具の側でも見ておくことがあります。
- 学習に使われない設定になっているか——個人アカウントなら、設定画面に「入力を学習に使う」の項目があることが多いです。あればオフにします。項目の場所や名前は道具ごとに違い、変わることもあるので、公式のヘルプで確認してください
- 会社のアカウントか、個人のアカウントか——会社が契約しているなら、会社のアカウントで使います。個人のアカウントで業務をすると、それ自体がルール違反になることがあります
- 会話の履歴を消せるか——万一入れてしまったときに、消す手段があるかを先に知っておきます
ここは私が正確に説明できる範囲を超えるので、「設定を見る」「分からなければ会社の担当に聞く」までにしています。
入れてしまったときにやること
気を付けていても、置き換え忘れは起きます。私は、貼り付けた文章に取引先名が残っていたことがあります。
- その会話を消す——履歴から削除します。道具によっては、削除しても一定期間は残ることがあります
- 何を入れたかを記録する——日時、道具、入れた情報の種類。あとで聞かれたときに答えられるように
- 会社のルールに報告の定めがあれば、報告する——「たいしたことない」と自分で判断しないほうが、あとで楽です
報告するかどうかは、会社のルール次第です。私は、ルールに定めがある場合は報告する、と決めています。隠した事故のほうが、あとで大きくなります。
自分で最終確認すること
AIに渡す前に、貼り付けた文章をもう一度読んで、次を見ます。
- 固有名詞が残っていないか——人名・社名・案件名・システム名
- 数字が残っていないか——金額・数量・日付(日付は案件が特定できることがある)
- 「この文章が社外に出ても困らないか」——1回だけ、自分に聞く
返ってきたあとも見ます。AIが「一般的な会社ならこうする」という情報を足していて、それが自社の話のように読めることがあります。それを社内文書に入れると、事実と違う文書になります。議事録での注意点はAIで議事録を作る方法【プロンプト例と社内ルールの注意点】に、メールでの注意点はAIでビジネスメールを書く方法【型とシーン別プロンプト集】に書きました。
よくある質問
Q. 会社契約のAIなら、何を入れてもいいですか?
会社のルールに従ってください。会社契約でも「顧客の個人情報は入れない」と定めていることが多いです。私は会社契約でも、上の表の右の列は入れません。契約が変わっても、習慣は変わらないほうが安全だからです。
Q. 置き換えると、AIの答えの質が落ちませんか?
型や整理を頼む分には、落ちた実感はありません。「取引先A」でも「〇〇株式会社」でも、アジェンダの型は同じです。本当の名前が要る作業は、AIに頼む作業ではないと考えています。
Q. 個人情報とは、具体的に何ですか?
法律上の定義は、私が正確に説明できる範囲を超えます。私の運用では「氏名・連絡先・顔・その人だと分かる組み合わせ」は全部入れないとしています。法律上どうかは、会社の情報管理の担当や、必要なら専門家に確認してください。
Q. 副業のブログでは、線引きは違いますか?
基本は同じです。会社の情報を副業のAIに入れないのは当然として、ブログでは家族の情報(子供の名前・学校・住まい)が「入れないもの」の中心になります。会社では会社の情報、家では家族の情報、と対象が変わるだけです。
Q. 線引きが厳しすぎて、使う場面がありません
最初はそう感じました。でも、「置き換えて型を頼む」だけで、メール・議事録・手順書・アジェンダ・関数は全部できます。使えないのは「本当の名前と数字がないと成り立たない作業」だけで、それは元からAIに頼むべき作業ではなかった、というのが私の結論です。
- 会社のルールが最優先。利用の可否・指定の道具・機密の定義の3つを先に確認する
- 入れないのは「それだけで特定できるもの」と「まだ外に出ていないもの」
- 氏名・社名・案件名・金額・文書の原文・システム名・未公開の計画・画像は入れない
- AIに入れた文章は向こう側のサーバーに送られる。学習・保存・閲覧の扱いは道具と契約で違う
- 大半の作業は「置き換えて型を頼み、あとで戻す」で足りる
- 迷ったら①入れない ②置き換える ③上司か担当に聞くの順
- 道具の学習設定・アカウントの種別・履歴の削除を先に見ておく
- 入れてしまったら消す・記録する・ルールに従って報告する
線引きを表にしてから、AIを使うときに手が止まる回数は減りました。減ったのは「迷う時間」で、「入れる情報」が増えたわけではありません。入れないと決めたものは、いまも入れていません。それでも仕事は進んでいます。使える範囲は、思っていたより広かったです。

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